20170425 NO.1
◎国家戦略特区による大学獣医学部誘致
このところ、マスコミ報道などによって全国的な話題になっている岡山理科大学獣医学部誘致について私見を述べてみる。

今治市と松山市を比較すると、戦前まで大差なかった人口が昭和50年になると倍半分になり(現市域)、その後その差が拡大している。原因は、かたや県庁所在地ということもあるが、大学の所在が大きく影響しているようにも思える。人口ピラミッドの18〜22歳を見ると、松山市は全国平均を大きく山のように上回っており、今治市は谷になって落ち込んでいる。

この年代が町の賑わいに及ぼす影響は計り知れないものがあり、今治市では、昭和50年策定の基本構想で学園都市構想を表明し、以降、高等教育機関誘致を模索し続けてきた。

新都市開発整備においても、計画当初の昭和58年から大学誘致のための用地を確保しており、合併直後の市長選で争点となって見直された計画においても、高等教育施設用地は継続され、整備が行われて現在に至っている。

高等教育施設用地整備が完成した平成18年頃に、岡山理科大学を運営する加計学園から獣医大学進出の打診があったのであるが、当時、私はその条件に驚いてしまったことは記憶に新しい。土地の無償譲渡と、施設整備の補助金100億円と聞いたものだから、そこまでして大学を誘致する意義はないと思ってしまった。

大学誘致と言っても、学生が集まらないものでは意味がない。近年、獣医学部の志願倍率は医学部なみであり、首都圏から遠い地方都市に学生を集める最適の学部の一つであることは間違いないのである。

国内の獣医学部定数は16大学930人に規制されており、今治で開学するためにはこの規制を打ち破らなくてはならない。構造改革特区の認定を受けることによりこの問題解決を図ろうとした今治市は、愛媛県と協力して平成19年度から特区認定申請をし続けたが、そのたびごとに文科省、獣医学会の壁に撥ねかえされてきた。

特区認定されたならば、土地の提供と建設補助金の支出がついてくるのであるから、申請前にこれらのことについて議会で議論しておく必要があったが、認定の可能性は極めて低いと思っていた私たちは、事前の議論を省略してしまった。この点については大いに反省している。

構造改革特区は、地方自治体が規制緩和などの申請を国に行い、これに対して国家戦略特区は、区域から出た提案を国が主導して決めるもので、岩盤規制といわれるようなものにも切り込むことができる。日本経済再生本部からの提案を受けて、現内閣が成長戦略の柱の一つに掲げた地域振興と国際競争力向上を目標とする経済特区である。

今治市は、平成28年1月に国家戦略特区の指定区域として政令指定されて、その後、国家戦略特区諮問会議やパブリックコメント、事業実施主体の公募などを経て平成29年1月20日に獣医学部新設を認める今治市の区域計画が内閣総理大臣により認定された。

区域計画認定によって、岡山理科大学獣医学部が平成30年4月開学に向けて、急ピッチで動き始めた。今治市としては、予定通り新都市高等教育施設用地を無償譲渡し、愛媛県の協力も得て96億円の補助金を複数年度に分割して交付することになった。

この土地譲渡や補助金交付については、上述のとおり大学進出の条件であり、これを呑む、呑まないは今治市が決めることである。国政野党などは、このことを政争の材料にしている。お門違いであり、迷惑千万だ。

新設獣医学部は、単に獣医師を養成するばかりではなく、動物感染症予防研究や、ライフサイエンス研究の拠点を目指しており、学生、教職員合わせて千人を超える規模になる。これらの消費支出や大学運営にかかる経済波及効果は毎年約20億円が見込まれる。経済とは少し違うかもしれないが、千人もの若者が新たに加わることによって街のスタイルも大きく変わっていくであろう。

大学誘致は、若者の流出が続く今治市にとって、実現の可能性がある最善の政策である。当初、驚くとともに疑問を感じた高額の補助金等であるが、想定通り学生が集まるのであれば、投資した以上の効果が期待できると思われる。

今は、マスコミの偏見報道などによる風評被害で、学生応募に影響が出ないことを願うばかりである。

photo-1  急ピッチでキャンパス整備が進んでいる
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