『今治新都市開発整備事業』
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 イオン(株)と土地譲渡契約が締結されて、この新都市開発事業の最終形が見え始めた。個人的な見解が多くなると思えるが、現在の状況等を報告したい。

◎土地区画整理事業

 今治新都市開発整備事業は、土地区画整理の手法を用いて行われている。
 一般的な土地区画整理事業は、その事業区域内の全ての土地から一定割合を出し合って(このことを減歩という)、道路・公園などを造るとともに、土地の区画形状・位置を利用しやすいように変える(このことを換地という)もので、減歩によってそれぞれの土地の面積は減ることになるが、資産価値を高くすることができるものとなっている。(代表的な事例として、今治駅西地区の土地区画整理事業が挙げられる。)

 今治新都市開発は特殊な土地区画整理事業であり、区域内の全ての土地を、今治市と都市再生機構が先行買収している。それぞれの持分は資産価値ベースで1/2ずつ。出来上がった造成地は、今治市のものと都市再生機構のもの(両者は同額)、それから、どちらにも属さない「保留地」に区分される。保留地は、直接売却されて、土地区画整理事業の財源になる。

 ただ、先行買収しているといっても、実際のところは今治市土地開発公社が金融機関からの借入金で行っているので、今治市に換地された土地であっても、それを使ったり、売却したりする場合には、今治市があらためて買い取る必要があることを留意しておかなければならない。
今治新都市開発整備事業は、都市再生機構、愛媛県、今治市が協力して事業を推進しているが、土地区画整理事業に限って言えば、事業主体は都市再生機構であり、保留地の処分は機構が行う。
 換地計画は、現在のところ次図のようになっている。

図1

図2

第1地区、第2地区の全体位置図はこちら

◎第1地区土地利用

 第1地区の土地利用計画は、図1に示してあるとおりとなっている。北側から順に追ってみる。図をプリントアウトして、対比しながら見ていただきたい。

・産業系施設用地(A=6.9ha)
 都市再生機構に換地される(青色)4区画は売却済み。藤拓産業(株)、(有)宮窪総合運送、潮冷熱(株)、県繊維産業試験場。
 今治市に換地される(オレンジ色)区画は、さらに分割して、近々分譲公募が行われる。
建築中の建屋は藤拓産業(株) 上段の手前部分が県繊維産業試験場

・産業系施設用地(A=12.1ha)
 都市再生機構分と保留地(黄色)になってはいるが、実際は10haを超える一つの平面用地になっている。すでに造成済みであり、全国規模で、進出企業を探している。

・流通業務等施設用地(A=4.2ha)
 この区画は、すべて今治市に換地される。これから造成工事にとりかかり、その名のとおり、流通業務等を行う業者に今治市が分譲する。

・大型商業施設用地(A=12.2ha)
 8月1日付けで、イオン(株)と土地譲渡予約契約が締結された土地。都市再生機構分41億5千万、今治市分13億5千万、合計約55億円となっている。この用地もこれから造成工事を行い、2010年上半期の営業開始が予定されている。
第1地区中央の、県道・市道交差点
交差点の向う側左がイオン、右が流通業務、そのずっと奥が第2工区

・第2工区(A=23ha)
 この区域は、まだ着工が決定されていない。今治市の見直し案では、ここに県の中核施設(サッカー・陸上競技場)と、それに付随するサブグラウンドや駐車場を予定し、余った部分は住宅用地としている。このことは、機構、県と協議中であるが、当初計画で上記の大型商業施設用地に予定されていた県中核施設の設置可能な場所は、ここにしか残っていないのが実情である。
 都市再生機構は、平成25年度に事業を清算、撤収することになっており、それまでに処分が見込めないものについては、造成工事に着手しない方針だと聞いている。

 事業着手時の覚書で、県中核施設の用地は、機構換地を県が買い取ることになっている。現在の愛媛県の財政事情はかなりきびしいものであり、数年先とは言え、中核施設そのものの建設は困難を極めると推測されるが、用地取得だけは行ってもらわなければ、どうしようもない荒地と借金を今治市がいつまでも抱え込むことになってしまう。ただ、愛媛県の予算といえども、我々県民(市民)の税金であることを念頭に置かなければならない。高望みをしてはならないと思っている。

 サブグラウンド等の用地は、今治市換地が予定されている。今治市の土地ではあるが、先述のとおり、金融機関からの借入金で土地開発公社が持っている。完成後は今治市が買い取らなければならない。
 保留地には駐車場等の用地と住宅用地が計画されているが、一般分譲住宅地以外は公共用地となり、その分も今治市が買い取ることになる。
 県施設の用地費は18億円程度、今治市の買い取り分は、はるかにそれを上回ることが予想される。

◎第2地区土地利用

 第2地区の土地利用計画は、図2に示してあるとおりとなっている。こちらは、東側から順に追ってみる。

・高等教育施設・研修研究施設等用地(A=18.3ha)
 この区域は、事業着手前から大学の誘致を目指していた。しかし、少子化の影響で多くの大学が定員割れを起こしている現在の状況では、そういったことを望めるわけがなく、今回の今治市見直し案においては民間の福利・厚生施設や専門学校を誘致するようにしている。
 事業着手時の覚書では、今治市が機構から買い取ることになっているため、市道南側の保留地は14億5千万円で昨年度に土地開発公社が取得し、北側の機構換地と保留地を約8億円で今年度同じく公社が取得することが予定されている。残りは今治市に換地されるが、一番東端の1区画はすでに建設業協会に売却されて事務所ビルが建設されている。
 各地で行われた市政報告会でお聞きになった方もおいででしょうが、ここにきて、ある大学の特殊な学部の進出話が湧き上がっている。経済波及効果や若者の増加による活力など、机上の計算ではすばらしいものがあるが、30数億円と予想される土地の無償譲渡や、それよりもはるかに高額の補助金給付が進出条件になっているそうで、期待する以前の問題がありすぎるのではと思ってしまう。
別宮町方面へ開通した市道 両側が高等教育施設用地

・公共施設用地(A=3.9ha)
 当初計画では、今治市の中核施設として文化ホールが予定されていた区画。保留地であり、これも覚書で市が買い取ることになっている。文化ホールは、中心市街地に建設する方針となったため、利用目的が未定である。西部丘陵公園ふれあいゾーンの入り口に位置する丘の上の一等地であるが、民間に分譲することも視野に入れなければならない。

・近隣商業施設用地(A=0.5ha)
 隣接する住宅地の住民や、高等教育施設を利用する人たちの利便を図る商店などのための用地(今治市換地)。この土地を買って商売する方が現れるよう、周辺の状況が進んでいってほしいものである。

・戸建住宅用地(A=6.5ha)
 総数270画地の住宅地。機構換地と保留地であり、本年10月受付分も含めて、すでに102画地が売り出されている。1画地60坪あまりが基本で、平均18万5千円程度の坪単価になっている。全体がゆるやかな南向き地で、電柱などの配置も工夫されていて、美しく、魅力的な街並みが姿を現し始めた。

・体験・自然学習施設用地(A=2.8ha)
 隣接する西部丘陵公園の実験・体験ゾーン、里地・里山ゾーンの利用と連動する学習施設をということでこの名前が付いている。現在、荒造成工事が終わったところであるが、ここに箱物整備をしても、維持経費の捻出さえできないものになってしまう恐れがある。
 自然学習施設の設置スペースは、隣接する公園内に十分なものが確保できると思われるので、この用地についても、周辺環境にマッチした民間の研究機関などの誘致を進めていくのが望ましい。
近隣商業施設用地から見た体験・自然学習施設用地

◎今治市の財政負担

・新都市開発整備事業費
 事業計画見直しとあわせて、事業費も見直された。当初計画事業費総額500億円(土地区画整理事業289億円、関連公共事業211億円)であったものが、第1地区計画住宅地内道路費や借り入れ金利の低下などによって、総額418億円(土地区画整理事業217億円、関連公共事業201億円)となり、このうち平成18年度までの支出済総額175億円(土地区画整理事業82億円、関連公共事業93億円)となっている。
 総額418億円のうち今治市負担分は177億円であり、平成18年度までに81億円支出済みで、今後、残りの96億円を用意しなければならない。

・用地取得費
 今治市分の用地先行取得費は76億円。完成後今治市に換地される土地(図1・2のオレンジ色の土地全て)の帳簿上の金額は、この76億円に借り入れ利息を加えたものになる。そのうち、土地開発公社経営健全化のため、18年度予算で7億円余りを市が買い取っている。
 このほか、覚書に基づき保留地、機構換地を買い取らなければならないものが、第2地区高等教育施設用地の22億5千万円、同じく公共施設用地約15億5千万円(私の予想金額)であり、覚書にはないけれど第1地区第2工区保留地の一部も買い取らなくてはならない。
 仮に、第2工区保留地分を10億円、借り入れ利息を6億円とすると、今治市用地取得費合計は、約130億円(私の予想金額)になる。
 今治市が取得する用地のうち、分譲することになっているもの(第1地区産業系用地、流通業務等施設用地、大型商業施設用地、第2地区近隣商業施設用地)がすべて処分できても40億円程度(私の予想金額)にしかならず、先にも書いたとおり、他の用地(公共施設用地、体験・自然学習施設用地、高等教育施設用地)も分譲することを視野に入れなければならない。
 これとは別に、土地利用計画のところでは触れなかった水道供給施設用地3箇所があり、これらは平成18年度に、水道事業会計が2億5千万円余りで購入済みである。

◎今後の見通し(私見)

・新都市開発整備事業
 先に、今治市の今後の負担額96億円と書いたが、このうち関連公共事業費分が87億円で、市道整備と西部丘陵公園事業がそのほとんどを占めている。市道整備は、造成地の利用や分譲の状況に合わせて行えばよいもので、西部丘陵公園についても、その時どきの財政状況を見ながら、ゆっくりと整備すれば十分であるし、それ以上のことはできない。

・用地取得
 今治市が用地費負担する土地は、今治市換地であろうと、保留地・機構換地の買い取り分であろうと、原則的には全て分譲可能である。ただ、県の中核施設に付帯する駐車場等の用地は、中核施設立地の可能性が消えてしまわないかぎり、公共用地として今治市が所有しておかなければならない。
 すでに分譲目的になっている用地については、ほとんど売却できるものと思われるが、それら以外の用地の分譲は、売渡相手が限られてなかなか進みにくいことが予想される。だからといって、叩き売ったり、変な形で切り売りしたりしてしまったのでは、せっかくの事業が台無しである。今治市発展のための資産として、また、財政状況が好転したときに必要となる公共施設の用地として、しっかりとした考えを持って保有しておくのがいいのではないだろうか。


森きょうすけ
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